肝疾患(肝臓病)と漢方薬
日本において、肝疾患で多いものはウイルス性肝炎で、そのなかでもC型ウイルス肝炎が一番、次いでB型ウイルス肝炎となっています。
まず「自分がウイルスに感染しているかどうか」を知る手がかりですが、
朝一番の尿の色を確認する
定期的に血液検査をするといった方法があります。
朝一番の尿の色が赤っぽい、または茶色っぽい、と思ったら、血液検査をおすすめします。血液検査で、
ウイルス量が、4 log/mL 以上
または
ALTの値が、31 U/L 以上の場合は、専門医を受診し、超音波(エコー)検査や肝生検で診断することができます。
肝の機能低下
肝の機能が低下してくると以下のような症状が表れてきます。
* 両手両足のほてり
* 両手の赤み
* 乾燥肌
* 眠れない
* かすみ目
* 充血、疲れ目
* イライラする
* かんしゃく
* 怒りっぽい
* 吐き気、嘔吐
* げっぷ
* 上腹痛
* 胸脇の圧迫感
* 爪が薄くて割れやすい中医学では、肝は血を蔵し、筋を主(つかさ)どり、疏泄(そせつ)を主どり、また、目と爪と深い関係がある、と考えます。
肝は五行論でいうと、のびのびすくすくと育つ『木』に属します。
肝がうまく働かなくなると、本来のびのびと育つ特性を阻害され、血を蔵して身体を栄養することができなくなり、また気血がうまく巡回することが出来なくなり、その結果、上記のような症状が表れてくるということです。
肝疾患のなかでも多いウイルス性肝炎、特にB型ウイルス、C型ウイルスの対応として、病院で処方される薬と漢方薬の併用は多いに期待できます。漢方薬を上手に活用して、まず、今ある症状の改善、そして肝機能の向上、がん化を防ぐ、最良の方法をいっしょに探しましょう。
B型肝炎の現在(いま)
3歳以下でB型ウイルスに感染すると、10%くらいの方が慢性肝炎になりますが、多くの方が無症候性キャリアといって、何の症状もないまま一生を過ごすことが多いです。
ただ、無症候性キャリアの方の一部は、年齢があがるにつれ免疫反応がおきたり、ウイルスに変異がおこったりして、ALT値が高くなることがあります。
成人になってからB型ウイルスに感染した場合は急性肝炎をおこしますが、多くの方が治癒します。
そして10%くらいの方が無症候性キャリアへと移行します。
B型肝炎の薬には、核酸アナログ(子どもを希望する方は使えない)、エンテカビル、アデホビル、ラミブジン、インターフェロンなどがあります。
しかしながら、B型ウイルスは完全に体外からなくすことは難しく、ウイルスを抑えて進行を防ぐ目的で対応します。
飲み薬は、飲み忘れると耐性ウイルスができやすいので、飲み忘れをしないよう注意する必要があります。
また、無症候性キャリアと診断された方も、定期的に血液検査をしてウイルス量とALT値をチェックすることが大切です。
C型肝炎の現在(いま)
C型肝炎の方は、日本に190万人~230万人ほどいるといわれています。
病院での薬を選択する際に、遺伝子検査をして、ウイルスの型と耐性ウイルスの有無、またご本人の体質を調べたうえで対応すると良いそうです。
C型ウイルスには、1型と2型があり、またウイルスの量を調べることで「治りやすい」か、「治りにくい」かを知ることができます。耐性ウイルスがいる場合は、研究中の薬を検討するか否かを知ることができます。体質を知ることでインターフェロンの有効性を知ることができます。
先に遺伝子検査をすることで、無駄な治療を避けることができるということです。
遺伝子検査は、健康保険が適応されず(1万~2万くらい)、対応している病院も限られていますが、今後の対応の為には重要であるといえます。
C型ウイルス肝炎の薬には、ペグインターフェロン、リバビリン、ウイルス直接阻害薬などがあります。副作用が多いのですが、現在、シメプレビルという副作用の少ない新薬ができたばかりです。 また、アスナプレビル、ダクラタスビルという研究中の薬があり、有効性が確認されれば、数年後には使えるようになるかも知れません。
「治りにくい」1型で、インターフェロンが効きにくい体質の方、耐性ウイルスがある方は、肝ひご療法(現在ある薬で対応しながら時を待つ)をとることが多いようです。
肝疾患(肝臓病)と漢方薬
現代医学治療においても、ウイルスを完全に排除することは難しく、ウイルスを抑え、肝硬変や肝がんへ進行しないようにする、といった方法が一般的です。ウイルスを抑える為に使用する薬も、副作用があったり、使えないといわれたり、問題を抱えています。
漢方薬の役割としては、まず今ある、不快な症状や苦痛をとりのぞき、QOL(クオリティオブライフ)を向上することです。
次に、病院の薬と併用したり、治療方針と相互協力することで、肝機能の改善、全身バランスの安定といった相乗効果が期待できるところです。よく「ウイルスと仲良く共生していく」と患者様から聞くことがあります。穏やかな余生を過ごすお手伝いも、漢方薬がちからになれることでしょう。
柴胡(さいこ)・・・和解退熱・疏肝解鬱・昇挙清陽
田七人参(でんしちにんじん)・・・活血、止血、肝機能保護
山査子(さんざし)・・・消食化積・活血化オ
茵陳蒿(いんちんこう)・・・利水滲湿
決明子(けつめいし)・・・清熱明目・潤腸・明目
茯苓(ぶくりょう)・・・利水滲湿・健脾安神
白朮(びゃくじゅつ)・・・補気健脾・燥湿利水・止汗・安胎
桂皮(けいひ)・・・解表(鎮静鎮痛)・健胃
沢瀉(たくしゃ)・・・利水滲湿・泄熱
猪苓(ちょれい)・・・利尿・解熱・健胃整腸
白花蛇舌草(はくかじゃぜつそう)・・・清熱解毒・抗癌
抗炎症、自律神経安定、免疫調節作用のある柴胡(さいこ)は、肝疾患でファーストチョイスされやすい生薬です。大柴胡湯(だいさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などの漢方薬があります。
急性肝炎で、胃腸トラブルが顕著な場合、沢瀉、猪苓、白朮、茯苓、桂皮で構成される五苓散に、茵?蒿(いんちんこう)を加味した、茵陳五苓散(いんちんごれいさん)を用いることもあります。
胃腸トラブルが少ない場合は、茵?蒿(いんちんこう)に山査子と大黄を加えた漢方薬で、茵?蒿湯(いんちんこうとう)が適応となり、また、五苓散と小柴胡湯(しょうさいことう)を合わせた柴苓湯(さいれいとう)は、体力の落ちている方、尿量が普通にある方には向きません。
その他、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)など、その方が初期か中期か、症状はどうか、体力はあるのかないのか、年齢など、ひとりひとりの症状や体質によって選択する漢方薬も違いますので、必ず漢方専門の方にご相談のうえ、服用いただくことをおすすめします。
漢方薬は医薬品です。
服用の際は必ず専門スタッフにご相談ください。「B型ウイルス肝炎、C型ウイルス肝炎のキャリアだけど、これからどうすれば良いのか?」「漢方薬を試してみたいけど、自分には何があうのか?」「治療がつらい」「改善しない」など、おひとりで悩まず、お気軽に坂重薬局にご相談にいらしてください。
ウイルス性肝炎の漢方対応💗代表的な証
➷肝胆湿熱
急性または増悪期に多く見られる証で、のどが渇く、口が苦い、皮膚の乾燥、黄疸、発熱、両脇の痛み、尿の色が濃い、便秘または便が固い、といった症状があります。
柴胡桂枝湯、茵?蒿湯(いんちんこうとう)が代表的な漢方薬で、GOTやGPTの値が100以上の場合は、白花蛇舌草などをプラスオンします。➷肝気鬱滞
肝炎が慢性化してくると、脇腹やおなかのはり、上腹痛、げっぷ、嘔吐、イライラ、怒りっぽいといった症状がでてきます。
代表的な漢方薬は、小柴胡湯、四逆散、加味逍遙散などです。ただし、小柴胡湯は「汗がでる」「嘔吐」「下痢」などの胃腸症状がある場合やインターフェロンとの併用は一般的にはしません。肝硬変へと進行すると、脇腹の違和感は刺すような痛みに変わってきます。➷肝腎陰虚
中期~末期、肝硬変になった方によくみられる証です。
かすみ目、めまい、ほてり、耳鳴り、多夢、不眠、寝汗、乾燥感、胸脇痛、といった症状があります。代表的な生薬、漢方薬は、田七人参、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸などです。➷おけつ・気滞
肝血のめぐりが悪くなり、肝機能が低下している場合で、初期~末期まで幅広くみられます。
田七人参、冠元顆粒などがよく使われます。うつ、やる気がでない、顔色が黒い、情緒不安定、ガスやげっぷが多い、シミくすみそばかす、胸がつまる、などの症状があります。以上、ウイルス性肝炎対応で、代表的なタイプを4つ挙げましたが、もちろんこの限りではありません。おひとりおひとりによって、証が違います。よって適応する漢方薬も違ってきます。
また、ウイルス性肝炎、特にC型肝炎は難治ですので、病院からも「この治療で100%治ります!」ともいわれませんし、中医薬学の視点からも「この漢方薬で100%治ります!」ともいえません。
ただ、今、副作用も少なく治せる可能性も高くなる薬も研究中ですし、そのままウイルスと共生していく、支障ない日常生活を一日でも長く続けたい、という方の助けとなります。
おひとりで悩まず、みんなで協力しあって、病気に負けない対応をしていきましょう!
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